「なんだか頭がうまく働いていないな」と感じた時には

これに加えて、考えなければならないこと、覚えておくべきことを頭の外に出してしまうということも、環境の活用と見なせるでしょう。

しなければならないことを覚えておくという記憶を「展望記憶」と呼びますが、多忙で、すべきことがたくさんある時には、そのうちの一つ二つをついうっかり忘れてしまいがちです。

頭の中の展望記憶だけでは忘れてしまいやすいため、その内容を頭の外に出すこと、つまり外化(見える化)が大切です。メモなどの外部環境を活用し、ワーキングメモリにかける負荷を少しでも軽減することによって、限りあるワーキングメモリを無駄遣いせず、有効活用することができます。

すべきことをリスト化したものは、To - Doリストと呼ばれますが、このそれぞれの項目に所要時間の見込みを書き加えることによって、優先順位を考慮した無理のない計画が立てられ、時間を有効に使えるでしょう。私たちの毎日の限られた時間も、貴重なリソースです。時間をうまくマネジメントすることは、認知資源の活用につながります。

実は、時間管理ができていることと大学の成績との間には、高い相関が見出されています*5。

つまり、時間管理がきちんとできている学生は、学業成績も高いということです。たとえ潜在的な能力が高くても、時間管理がうまくできていなければ、レポートの提出期限に間に合わなかったり、準備不足の状態でテストを受けなければならなかったりするため、十分な成果をあげることはできないでしょう。頭を上手に使って成果をあげるためには、外部環境を利用して時間というリソースをうまく活用していくことが必要です。

頭の働きは、私たちが考える以上に、環境からの影響を強く受けています。

「なんだか頭がうまく働いていないな」と感じた時には、一度環境に目を向けてみると解決への糸口が見つけられるかもしれません。環境を改善することで認知活動が改善される、というメタ認知的知識を心に留めておくことは役立ちます。

「なんだか頭がうまく働いていないな」と感じた時には、一度環境に目を向けてみると解決への糸口が見つけられるかもしれない(写真提供:写真AC)

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*1. 辻村壮平・上野佳奈子(2010)「教室内音環境が学習効率に及ぼす影響」日本建築学会環境系論文集、75, 653, 561-568.

*2. 金子隆昌・村上周三・伊藤一秀・深尾仁・樋渡潔・亀田健一(2007)「実験室実験による温熱・空気環境の質が学習効率に及ぼす影響の検討―学習環境におけるプロダクティビティ向上に関する研究(その2)―」日本建築学会環境系論文集、 72, 611, 45-52.

*3. Ehrlichman, H. & Bastone, L. (1991) Odor experience as an affective state : Effects of odor pleasantness on cognition. Perfumer & flavorist, 1, 16, 2, 11-12.

*4. 鈴木健太郎・三嶋博之・佐々木正人(1997)「アフォーダンスと行為の多様性―マイクロスリップをめぐって―」日本ファジィ学会誌、9, 6, 826-837.

*5. Britton, B. K., & Tesser, A. (1991) Effects of time-management practices on college grades. Journal of Educational Psychology, 83, 3, 405-410.

※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

メタ認知-あなたの頭はもっとよくなる』(著:三宮真智子/中公新書ラクレ)

自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる「もうひとりの自分」。それが「メタ認知」だ。この「もうひとりの自分」がもっと活躍すれば、「どうせできない」といったメンタルブロックや、いつも繰り返してしまう過ち、考え方のクセなどを克服して、脳のパフォーマンスを最大限に発揮させることができる! 認知心理学、教育心理学の専門家が指南する、より賢い「頭の使い方」。