森の記号は針葉、広葉、その他いろいろ
ネットの地図では「緑色の表示が森林」というのが定着している。実際の緑の濃淡はいろいろだが、川や海を水色で表現するのと同様にイメージしやすい色使いだ。
アメリカやスイスなど、国によっては薄い緑の面表現で森林を表す地形図を刊行している例も珍しくないが、日本の地形図に森林といった包括的な記号はない。明治から現在に至るまで、いくつかの記号で分類してきた。
針葉樹林と広葉樹林の2種類が基本で、これが国土の7割近くを占める森の大半に用いられている。その他には、南西諸島などに見られる「ヤシ科樹林」、それから、通常は森と呼ばない「竹林」や「ハイマツ地」「笹地」などがその仲間だ(以上「平成25年図式」による呼称)。
明治からと申し上げたが、明治13年(1880)から測量が始まった日本で最初の地形図とされる「迅速測図」で用いられたのは針葉・広葉樹林という分類ではなかった。
彩色された原図(日本地図センターが一部を復刻販売)では森林のエリアを緑色に塗り、そこに「杉」や「松」などと樹種がそのまま記されており、2種ある場合は「楢及松」などと芸が細かいが、これはあくまで原図のみで、刊行されてはいない。
明治20年代に刊行された1色刷の印刷図「2万分1迅速測図」では文字表記ではなく記号に転換された。具体的には針葉樹が「松林」「杉林」「檜林」の3種類、広葉樹は「雑樹林」である。
ちなみに現在の竹林は「竹叢」、笹地は「篠叢」の記号が用いられ、今日では該当する記号がない灌木や草などが茂った場所には「樸叢(ぼくそう)」という聞き慣れない名前の記号も置かれた。
次に関西を中心に明治17年から整備された「仮製図式」ではこれに「楢林及椚(くぬぎ)林」が加わったが、樹林の種類を現在のように針葉・広葉樹林に分類するようになったのは「明治24年図式」からである。
当時の用語として「鍼葉(しんよう)樹林」と「濶葉(かつよう)樹林」が用いられ、記号は当時ドイツで使われていたものをそのまま輸入した。針葉樹林は∧の右下に影のような点々、広葉樹林は○の右下に点々の記号である。