(写真:PhotoAC)
英雄は勇ましく猛々しい……ってホンマ? 日本の英雄は、しばしば伝説のなかに美少年として描かれる。ヤマトタケルや牛若丸、女装姿で敵を翻弄する物語を人びとは愛し、語り継いできた。そこに見た日本人の精神性を『京都ぎらい』『美人論』の井上章一さんが解き明かした連載「女になった英雄たち」が『ヤマトタケルの日本史』として刊行された。井上さんが同書を刊行したのちに気づいた、ある事実とはーー。

なぜ日本では「フランス革命」がよく知られているのか

日本では、フランス革命の歴史が、ひろく知られている。隣国の、たとえば韓国や中国の人たちとくらべても、よくわきまえていると思う。

日本の歴史教育は、それだけ多くの時間をこの革命にさいてきたようである。

もちろん、マンガの効用もあなどれない。1970年代以後、日本ではフランス革命を題材としたマンガが、数多くえがかれた。それらが革命がらみの知見を日本人におしえたことは、うたがえない。

なかでも、大きな役目をはたしたのは『ベルサイユのばら』である。池田理代子が1972年から発表しだしたこの作品は、読者から熱狂的にむかえられた。翌年には宝塚少女歌劇で舞台化され、その後も上演されつづけている。

『ベルサイユのばら1』著:池田理代子/集英社

主人公は、オスカルという貴族の娘である。女でありながら、近衛連隊の隊長をつとめた。男装の麗人として、そのキャラクターは設定されている。

ある日、彼女は国民会議の場で革命家のサン・ジュストを目撃した。そして、その美貌におどろかされる。「男装をした女がいるぞ! すごい美人だ」。オスカルは盟友のアンドレに、そうつげている。

現実のサン・ジュストは男である。革命期にはジャコバン派の闘士として活躍した。ルイ16世が断頭台へおくられたのは、彼の名演説もきっかけになったとされている。

美青年ではあったらしい。聖堂にえがかれ天使のようだと、じっさいにも言われていたようである。そんなサン・ジュストを、池田は女に見まがう人物として登場させた。自身も美しいと言われなれている、そのオスカルがたじろぐほどの美形として。