女装して敵を暗殺
こういう日本マンガ史上に、近年画期的な作品が出現した。『断頭のアルカンジュ』(メイジメロウ、花林ソラ)がそれである。2022年にはじまり翌年には完成した。
やはり、サン・ジュストを主人公とするマンガである。のみならず、作者は彼には、しばしば女装もこころみさせた。上原きみ子以後の経譜に位置づけうる作品である。
作中には、シャンパーニュの一領主であるブランジ男爵が登場する。
彼に妹をけがされ、サン・ジュストは復讐を思いたつ。そのため、女装にうってでた。ブランジがねらっている娘になりすます。その姿は、男爵家の執事から、「噂よりずっと美しい…」と評されもした。
女装者は、そのまま男爵の館へはいりこみ、当人と対面する。そして、自分にうっとりするブランジを、殺害した。相手のゆだんにつけこみ、敵(かたき)をうったのである。
史実では、ありえない。また、フランスでも、こういうサン・ジュスト像は語られてこなかった。日本のマンガが、かってにこしらえたフィクションである。
女装者がその魅力で敵の男をたらしこみ、隙をついて暗殺する。男でありながら、女スパイのような作戦で、ねらった相手を亡き者としてしまう。こういう話が、日本では8世紀はじめ、記紀のころから語られていた。クマソの族長をほうむりさったヤマトタケルの説話は、この型でできている。