男装の麗人から女装の達人へ
これに刺激をうけたのだろう。1978年には、サン・ジュストを大きくとりあげるマンガがはじまった。上原きみ子の『マリーベル』がそれである。池田作品のサン・ジュストは、まだ端役であった。それを、上原は主役級の一角におしあげたのである。
のみならず、上原のサン・ジュストは女装の達人にもなっていた。学生時代には女をよそおい、バイオリンを演奏することで、学費をかせぐ。ドレス姿に変装し、追手の目をくらましつつ、あぶない場はきりぬける。そんな人物設定がほどこされている。
池田作品では、まわりから女と見まちがえられるだけに、とどまっていた。それを、上原は、意図して女にばける策士へ変貌させたのである。のちのインタビューで、上原は池田からの感化を語っている。
「池田さんのサン・ジュストがインパクト強いでしょう(中略)サン・ジュストさんは一度描きたい人物で」(『マリーベル 6』2001年)。
木原敏江がえがいた『杖と翼』(2000―02年)に、女装の場面はない。まわりから、性別をいぶかしがられるぐらいに、その表現はとどまっている。ただ、『杖と翼』は、サン・ジュストを主役にしたてていた。池田理代子のまいた種が、大きくそだって実をなしたのだと考える。