チャンピオンベルトと金メダルを手に、報道陣に笑顔を見せる。2023年の世界選手権で(撮影:粟野仁雄)
レスリング女子53キロ級でパリ五輪代表に内定した藤波朱理選手、20歳。昨年9月にベオグラード(セルビア)で行われたレスリング世界選手権での優勝が、代表選出の決め手となった。長らく負け知らずで、連勝記録は吉田沙保里さんの119を抜き133に(3月21日現在)。パリでは金メダル候補の筆頭格といわれている(取材・構成・撮影:粟野仁雄)

ウィニングランは 父とともに涙で

これまで生きてきて一番嬉しかったのはやっぱり、初めてのオリンピック代表を決めた昨年の世界選手権優勝です。勝利が決まった直後、セコンドを務めていたコーチの父をマットに呼んでタックルしました。このパフォーマンスは事前に「優勝したらやろうね」と2人で決めていたものです。

日の丸を持ってのウィニングランに父を誘ったのは、打ち合わせなし。2人でマットの上を走る間、いつしか父も私も泣き顔になっていました。

ここまですべてが順調だったわけではありません。17歳だった2021年、初出場した世界選手権では全試合テクニカルフォール(時間内に10点以上の差で勝利すること。現・テクニカルスペリオリティー)で優勝できたので、22年には連覇を目指していたのです。

それが大会直前に怪我をして、夢は消えてしまいました。それだけに23年の大会優勝とパリ五輪出場決定の感激はひとしおでした。

23年の大会では、準々決勝でエクアドルの選手にタックルからポイントを先に取られました。国際大会では4年ぶりの失点になります。それでも、30秒のインターバルで、父から「いつも通りにいけば大丈夫だ」と言われて、落ち着きました。

怖がらずに攻めた結果、フォール勝ち(相手の両肩を1秒以上マットにつけて勝利すること)に。その勢いで決勝は、元世界王者のワネサ・カラジンスカヤ選手(ベラルーシ)に、テクニカルスぺリオリティーで勝つことができました。

タックルで父をひっくり返すパフォーマンス。喜びを噛みしめる