(写真:丸山ゴンザレス)
ジャーナリストの丸山ゴンザレスさん。危険地帯や裏社会を主に取材し、現在はテレビに加えてYouTubeでも活躍中です。その丸山さんに欠かせないのがタバコ。スラム街で買ったご当地銘柄、麻薬の売人宅での一服、追い詰められた夜に見つめた小さな火とただよう紫煙…。旅先の路地や取材の合間にくゆらせたタバコの煙がある風景と、煙にまとわりついた記憶のかけらを手繰り寄せた丸山さんの異色の旅エッセイ『タバコの煙、旅の記憶』より「パリで出会った景色」を紹介します。

パリの地下

2023年、まだ厚手の上着が必要な春先に花の都・パリの地下にいた。地下鉄ではないし、何かの比喩でもない。文字通りの地下である。

以前からパリに地下空間が存在しているのは知っていた。そこを取材することになった。

通常、パリを訪れる人はファッション、グルメ、美術、歴史、街並みなどのカルチャー目当てのことが多いだろう。俺もこの街のカルチャーとしての地下探索を目的にしていた。それほどメジャーではないかもしれないが、地下探索は歴史のあるカルチャーなのだ。

だから街ゆく人にインタビューして「地下を見たい」「地下探索をしたい」と言っても怪訝な顔をされることもない。それどころか自分も入ったことがあるという経験者に出くわすことも珍しくない。

ただし、「どこから入れますか?」と質問すると「今はわからないな」と一様に渋い感じになってしまう。いざ始めてみると、本当に入り口が見つからない。どうやって地下に降りていいのかがわからない。

実は近年に地下を使った無許可のイベントが開催されるなどの問題があったため、当局も取り締まるようになり、これまで知られていた入口も閉鎖されてしまっているという。現役で出入りできる地下への入り口というのは、少なくなっているのが現状なのだ。