赤塚の思い込み
「私、とにかく気が強いし、エエカッコしいでしたから……」
登茂子は同時に、自分の気の強さを悔いている。
「嫌だって言ってたら、たぶん離婚にならないで、(家にほとんど帰ってこない)別居状態が続いただけだと思う。でも私、『離婚してくれ』って言われたら、嫌ですなんて言えないんです」
赤塚自身も、はずみで言ってしまったものの、本気ではなかった。それどころか、登茂子のほうから離婚を切り出されたと思い込んでいたのだから……。
もっとも、離婚に至るような、伏線はあった。
いつも、言った言わないでけんかになる。
「言ってないよー! 違うよー!」
「何よ、もう腹立つバカヤロウ!」と掴みかかろうとすると、「格好いい!」とはぐらかされ、腰砕けになって修羅場にならない。そんなことの繰り返しだった。
「金も名誉もあるし、女にもモテる。ネックは女房子どもがいること。だから、離婚する気は本人にも少しはあったと思う。愛人の言葉で弾みがついて、それが引き金になった。もっとも、その愛人と一緒になる気は、さらさらなかったでしょうけど」と、登茂子は振り返る。