赤塚の思い込み

「私、とにかく気が強いし、エエカッコしいでしたから……」

登茂子は同時に、自分の気の強さを悔いている。

『赤塚不二夫 伝 天才バカボンと三人の母』(著:山口孝/内外出版社)

「嫌だって言ってたら、たぶん離婚にならないで、(家にほとんど帰ってこない)別居状態が続いただけだと思う。でも私、『離婚してくれ』って言われたら、嫌ですなんて言えないんです」

赤塚自身も、はずみで言ってしまったものの、本気ではなかった。それどころか、登茂子のほうから離婚を切り出されたと思い込んでいたのだから……。

もっとも、離婚に至るような、伏線はあった。

いつも、言った言わないでけんかになる。

「言ってないよー! 違うよー!」

「何よ、もう腹立つバカヤロウ!」と掴みかかろうとすると、「格好いい!」とはぐらかされ、腰砕けになって修羅場にならない。そんなことの繰り返しだった。

「金も名誉もあるし、女にもモテる。ネックは女房子どもがいること。だから、離婚する気は本人にも少しはあったと思う。愛人の言葉で弾みがついて、それが引き金になった。もっとも、その愛人と一緒になる気は、さらさらなかったでしょうけど」と、登茂子は振り返る。