2ヵ月半ぶりのわが家と街の空気

5月29日、ピートはついに退院した。車椅子ごと救急車に乗ってトライベッカのロフトへ帰る。ピートにとって3月10日から2ヵ月半ぶりのわが家だった。

この日には「ビジティング・ナース」という訪問看護サービスから看護師が派遣されてきた。この先1ヵ月ほど、血圧測定、インシュリン注射など看護全般を監督してくれる。電動式ベッドもビジティング・ナースの手配でこの日遅くにようやく届いた。

『アローン・アゲイン:最愛の夫ピート・ハミルをなくして』(著:青木冨貴子/新潮社)

パメラが夜7時に到着。リビングルームに電動式ベッドを置いてピートを寝かせ、その近くのカウチで一晩中、仮眠を取りながら介護してくれる。わたしは自分の寝室に引き上げて久しぶりに休むことができた。

パメラはカリブ海のトリニダード・トバゴ共和国の出身。昼間は病院で働き、夜はわが家へ来るからほとんど24時間勤務である。

「そんなに働いて、体は大丈夫なの」と訊いてみると「わたしはずっとこうやって仕事してきたから大丈夫」と笑いながら答える。看護師助手といってもいろいろな種類の免許があるらしいが、最上級の免許までもっているという。

ドージーが来た翌日、ピートは初めて車椅子に乗って表に出ることができた。ピートの車椅子はわたしには重くて押せないが、ドージーならニューヨークのデコボコ道を問題なく押していくことができた。

馴染みある通りもお店もずいぶん見ないうちに新しい風景になっていた。前の通りで掃除などしている雑役夫のジョーに声をかけ「元気になったよ」と握手したり、角のレストランを指して「ああ、また新しい店になったね」と変化を楽しんでいる。街の空気を吸ってピートは心から嬉しそうだった。