「男対男」としての約束

「ボクシングは甘いスポーツじゃないよ、それでもできるの?」

尚弥の目をじっと見つめ語りかけました。うん、と頷きます。その目からは揺らぐことのない意志が感じられました。自分は尚弥をじっと見つめて言葉を続けました。

「父さんはボクシングに嘘をつきたくないから一生懸命やっているんだ。尚もボクシングに嘘をつかないと約束できるか。練習がどんなに辛くてもやり通せるか」。

尚弥はほおを真っ赤にさせて返してきました。

「うん。お父さんと一緒にやりたい」。

子どもながらに決意を秘めた表情でした。胸の奥底から熱い気持ちが湧き出ているのが見て取れました。それを受けて、自分は「親と子」ではなく「男対男」としての約束をしました。

「よし、それならお父さんと一緒にやろう。でも本当にできるのか? 明日になったらもう嫌だ、と言うなら父さんは教えないよ」。

尚弥は渾身の力で首を上下に振ります。

「ボクシングをするなら『でも』『だって』も言っちゃダメだからな」。

まだ子どもとはいえ、自分で選んだ道です。その覚悟を示してもらうためにも言い訳は禁じました。できないことを他人のせいにしない。自分で決定を下した以上、そこに責任は発生することを知ってもらいたかったのです。

「うん、わかった」。

尚弥は素直に繰り返します。よし、と自分は大きな声を出して気合をいれました。