(書影:講談社)
24年5月6日、東京ドームにて、マイクタイソン以来34年ぶりとなるボクシングのタイトルマッチが開催。世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥選手(大橋)が、元世界2階級制覇王者ルイス・ネリ選手(メキシコ)に6回TKO勝ちをおさめました。「日本ボクシング史上最高傑作」とも呼ばれる尚弥選手をトレーナーとして、そして父として支えてきたのが真吾さんです。今回、その真吾さんが自身の子育て論を明かした『努力は天才に勝る!』より一部を紹介します。

自分のボクシングへの「愛」が子どもにも伝わって

尚弥にボクシングを教え始めた当時を振り返れば、親として、自分が大好きなボクシングを好きになってくれるように、飴と鞭を使い分けて工夫していました。それに子どもたちがうまくハマってくれたかな、という感じです。

親がやらせるというよりも、子ども自身が長じるにつれ、ボクシングの素晴らしさに気がつき始めていった。興味本位で始めたことですが、一生懸命やり続けることで競技の深奥が見えるようになったのです。

「左フックを打つときは前足に体重を乗せて」。

「パンチは最後まで打ち抜け」。

少しずつ練習の強度を上げ、少しずつ成長してきました。

今もあまり変わりませんが、当時、子どもの時分からボクシングをしていた選手はほとんどいませんでした。尚弥のクラスメートを見ても、野球やサッカー、水泳を習う子どもが大半でした。

15歳以下のキッズボクシングの大会は今でこそ後楽園ホールで全国大会が開催されていますが、当時は横浜さくらボクシングジム、熊谷ボクシングジムなど個々のジムで行うスパーリング大会があった程度で、組織立ってはいませんでした。

「オリンピックで金メダル」「世界チャンピオン」という遠い目標はあっても、球児にとっての「甲子園」、サッカー少年にとっての「国立競技場」のような目標となる舞台はなかったのです。それでも、尚弥と拓真はボクシングの練習を繰り返していました。

自分が愛するボクシング。その愛が、いつしか子どもにも伝わったのでしょう。じつはあのときのどこかの時点で「僕はサッカーがやりたいんだ」と子どもに言われたら、それは仕方がないと断念していたと思います。