父が今後の生活に望むこととは
医師は父に質問をした。
「退院した後、一番心配なことは何ですか」
父は間髪を入れずに答えた。
「食事ですね」
心の中で私は、「えー!」と叫んでしまった。家に居た時父は、歳を取ったから3食食べなくても平気だと言っていたのに、病院の規則正しい生活を経験して考えが変わったらしい。
もちろん、食欲があるのは良いことだ。でも医師に24時間見守りが必要だと言われた95歳の父の面倒をみる子どもは、私一人しかいない。
ずっと見守り、3食一緒に食べていたら、私は仕事をすることができない。
医師に、私が口を挟んでもいいか訊ねた上で、父に聞いた。
「パパはどこで暮らしたい?」
「お前の家かな……」
元気だった時の父は、「一緒に暮らそう」と私が誘っても断っていたのに、随分気弱になったものだ。
「わかったよ。どういう暮らし方がいいかを考えるね」
私は医師のほうに顔を向き直して頼んだ。
「父やソーシャルワーカーさんと話し合って今後のことを決めるので、もう少し退院を待っていただけますか」
医師は快く返事をしてくれた。
「構いませんよ。お父さんが納得してから退院してください」
「ありがとうございます」