施設に入居させるのは介護放棄か

父が健康だった時に私が「一緒に暮らそう」と言ったのは、バリアフリーのマンションに引っ越して二人で住み、面倒を見るという意味だった。現在の私の住まいは賃貸マンションで、介護用の改装に制限があるため、父が私の家に住みたいと言っても叶えてあげることができない。

父の年齢が10歳下の85歳だったら、新しいマンションに移って二人で暮らす費用も惜しくはない。しかし95歳になった父の残りの限られた人生に投資するには不合理に思える。

(写真提供◎森さん)

住宅の問題もさることながら、仕事で家を空ける時に、父の見守りができないことは最大のネックだ。訪問看護を利用しても、看護は見守りではない。留守する間、父を心配してハラハラドキドキして過ごすと、私の方が体調を崩しかねない。

施設に入居させるのは介護の放棄になるのではないか? いや、24時間見守ってくれる施設の方が父は安心して暮らせるのではないか? 頭の中は堂々巡りの状態が続いた。

病院のソーシャルワーカーに会う前に、老人施設について、インターネットで調べておこうと検索を始めて驚いた。

老人施設は思ったよりずっと種類が多くて、検索するたびに混乱する。例えば特別養護老人ホームは、要介護3以上であることが条件である。

あるいは、サービス付き高齢者向け住宅は、安否確認などの生活支援サービスを受けられるバリアフリー対応の賃貸住宅であるが、介護サービスは含まれていないところも多いなど、初めて知ることが非常に多かった。

インターネットで住み心地が良さそうな施設を見つけても、ひとつひとつ訪問して話を聞いていたら、膨大な時間がかかるだろう。

私は自分にとっての条件を決めた。私の家から近く、父を気軽に連れてきて一緒にご飯を食べられる立地条件であること。デイサービスが敷地内に併設されていて、楽しむ時間を持てる施設で、広めの居室であること。

入居一時金がなく、敷金と前家賃だけで手続きできて、1ヵ月の家賃と費用の合計が父の年金の金額に近いか、年金で足りなくても貯金を少し取り崩す程度ですむ施設。

そのような条件で絞ったところ、なんと車で数分のところに、ぴったりの有料老人ホームが見つかった。

3日後に病院のソーシャルワーカーに、この施設を基準にして相談して、ほかの候補を出してもらおうと心が決まった。 

(つづく)