〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。夏夫の父で暴力団員の〈長坂康二〉が銃撃された。犯人はみちかの母の同級生、黒川である疑惑が持ち上がる。

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菅田三四郎(すがたさんしろう) 私立蘭貫(らんかん)学院高校一年生

〈三公(さんこう)バッティングセンター〉アルバイト

 

 同じだな、って思っていた。

 あのサリンの事件で平和があっという間に崩れてしまって、でも事件と関係ない人の平和は崩れることもなくずっと続いていて、仕事も学校もなんの変わりもなく続いていく。そんなふうに思ったのは中三のとき。

 事件や出来事は、身の回りで突然起こる。

 でも、自分に関係のないことなら、普段の生活は変わりなく続いていく。

 夏夫(なつお)くんの父親が殺されても、殺した犯人がみちかちゃんのお母さんの幼馴染(おさななじ)みでも、その周りにいるだけの僕らの生活には変わりがない。

 悟(さとる)くんの暮らしには、大きな変化が起きているけれど、それは悟くんが自ら起こした変化だ。夏夫くんのために。

 夏夫くんとお母さんが悟くんの家に移ってもう十日になる。

 そして、間違いなく夏夫くんのお父さんを殺した人は、まだ警察に捕まっていない。

 ずっと逃げているみたいだ。

 みちかちゃんのお母さんはその逃げている男と、昔はすごく親しくて、何か知っていないかって警察が事情を訊(き)きに来たり、その男が逃げ込んできたりしたらどうしようって心配していたらしいけど、今のところみちかちゃんのところでも何の変化もない。

 そして、夏夫くんの住んでいたアパートにヤクザな人たちが来ている様子もない。

 だけど、その敵対する暴力団同士の争いは確かに起こっているみたいで、ガソリンスタンドの店長さんが知り合いの記者さんからいろいろ聞いてわかっている。ニュースに出るような、また人殺しとかは起こっていないみたいだけど、争い事は確かに起きていて、進行中なんだ。