そういうことか、って三公さんが何度か小さく頷いた。

 全部話した。

 もちろん関係のないところは抜かして。

〈カラオケdondon〉でバイトしている夏夫くんと仲良くなって、そして夏夫くんの実の父親が殺された組長で、今はそのとばっちりを受けないように、あるところに隠れるように住んでいるんだってこと。

 できれば、いつになったらそんなふうにしなくて良くなるのか知りたい。あるいは、今でもそこまでしなくてもいいから普通に暮らしていいとか、どんな些細(ささい)なことでもいいから知りたい。

 驚いたのは、三公さんは〈カラオケdondon〉の筧(かけい)さんを知っていた。

「同じ町で商売やってる者同士だし、そんなに年も離れていないしな。筧は確か第一高校でバスケ部じゃなかったかな」

「え、そんなことまで知ってるんですか」

「同級生のバスケ部で仲の良い奴がいてね。筧ってのはけっこう凄い選手で、中学の頃からバスケでは有名だったそうだぞ」

 そうだったんだ。

 筧さん意外とスポーツマンだったんだ。

「なるほどね、〈バイト・クラブ〉か。筧は〈カラオケdondon〉でそんなことやっていたのか」

 知らなかったな、って何か嬉しそうに微笑(ほほえ)みながら頷いている。

「うん。その〈バイト・クラブ〉の子だったら誰でも連れてきていいぞ。ボール打ちたいって子がいたらな。ただでいくらでも打っていいからな」

「いいんですか」

 にっこり笑った。

「筧の真似事してみるさ。苦労して頑張ってる若者にな。まぁここはバッティングセンターだから、好きに打ってくれってことしかできんけどな」

「みんなに言っておきます」

 たぶん、男子は皆野球は好きだ。女子はわからないけど。

「わかった、訊いてみよう。西森さんにな。俺が同席して一緒に話してみるよ。何もわからないかもしれないけどな」

 

小路幸也さんの小説連載「バイト・クラブ」一覧

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