「私自身はどんな最期を迎えるのかわかりませんが、父のように美味しいものをお腹いっぱい食べ、『あー、美味しかった!』と笑って死ねたら最高に幸せです」

もうお母さんは無理かもしれんよ

先ほどお話ししたように、母は現在も入院中です。腸閉塞をやってから少々食事が摂りづらくなっているものの、体自体はしっかりしています。

私は普段から「どうせ死ぬならニコニコして死にたい」と思っているのですが、今まさに母がそんな感じで。若い看護師さんたちをニコニコと、まるで自分の生徒を見るように眺めながら、「ありがとう、ありがとう」と言って過ごしているんです。私もあんなふうに歳をとりたいなあと思いますね。

やはり年齢と共に体力の衰えは感じますよ。お酒も弱くなりましたが、毎日飲んではいます。量は減りましたけどね(笑)。犬の散歩で1時間歩いたり、バランスの良い料理を心掛けたり、まずはできることから気を遣って、私自身も元気でいられたらいいなと思っています。

母とは週に1~2回、顔を見ながらリモートで話しています。私が「いま舞台をやってて、長いこと行けてなくてゴメンね」とか「昨日、山形から戻ってきたよ」などと言うと、「自分の仕事をちゃんとやらんとダメだよ」「大変だねえ。体大丈夫?」と励ましてくれるのです。

昔は親に向かって「感謝してるよ」とか「大好きだよ」なんて恥ずかしくて言えなかったけれど、今は平気で言えるようになりました。積極的に口にして、母が笑顔になるのを楽しみにしています。明後日は休みが取れたので富山に行って、「大好きだよ」を連発してくる予定です。(笑)

母は今も頑張って歩く練習をしていますし、私が「また一人暮らししたいねえ」と言うと「うん、一人暮らしする」と言います。でも最近になって「もうお母さんは無理かもしれんよ。ここで死ぬかもしれん」と、弱気な言葉も出るようになりました。せめてお正月には、車いすでもいいから自宅に連れて帰って家の様子を見せてあげたいのですが……。

でも正直なところ、これでお正月に母の大好きなお酒でもちょっと飲んで、そこで死んじゃってもいいんじゃないかとも思っているんです。もう94年も生きてきたんですもの。やりたいことを全部我慢して3年長く生きるより、やりたいことをやって亡くなったほうが幸せなんじゃないかって。

うちの父は入院していた病院で亡くなったんですが、ちょうど栗の時期で、お見舞いに行った母と私が、甘く煮た栗を持って行ったのです。父はその栗を「美味しい、美味しい」と私のぶんまで食べちゃって、母と私が「じゃお父さん、またね」と帰った2時間後に亡くなりました。そんなの一番いい終わり方ですよね。私自身はどんな最期を迎えるのかわかりませんが、父のように美味しいものをお腹いっぱい食べ、「あー、美味しかった!」と笑って死ねたら最高に幸せです。

母・須美子さんと実家の宮田旅館にて(写真提供:柴田理恵さん)

遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法(著:柴田理恵/祥伝社)

要介護の母を持ち、遠距離介護を実践中の柴田理恵さんが3人の専門家に聞いた――!
これから介護に直面する人に必ず役立つ”知っておきべき&やっておくべき”こと!!