ハルが礼をいって再び原稿に向かおうとしたとき、背後でまた玉蘭の声がした。

「――そういえば、内地からハルあての手紙が編集部に届いていたよ」

 書斎の入口にいた玉蘭は、かすかに不安げな表情を浮かべて、ハルに一通の封筒を手わたした。玉蘭は内地からの知らせを伝えるとき、いつも不安げな、しかし抑えがたい好奇に満ちた視線でハルを見る。

――この子は、知らせがあたしを内地に連れ戻すんじゃないかと心配しているのかしら?かわいい子。

 封筒を裏返すと、永岡小鈴(ながおか・こすず)という差出人の名前が書かれていて、ハルは急に胸がざわざわと騒ぐのを感じた。

「妹よ。高女を卒業してすぐに嫁いだから永岡姓なの」

 玉蘭は、はっきりとわかるくらいほっとした顔をして、いつもよりもぎこちなく、そうか、では邪魔をしては悪いからわたしは下にいくね、とそそくさと書斎からでていった。

 封筒を開けて、きれいに折りたたまれた紙片を取りだすと、ハルの手から逃れるように便箋が一枚はらりとライティングデスクの上に落ちた。

 ――お姉さまは元気でいらっしゃいますか。毎日が南国の暮らしなんてほんとうにうらやましいわ。

 妹の美しい文字を目で追いながら、ハルは漠然と、小鈴は幸福ではないのだろうな、と思い、胸が苦しくなった。