手紙の上に朱を振りかけて…
これに対し宣孝は、手紙の上に朱を振りかけて、「涙の色を見て下さい」と返したが、紫式部はつぎの歌を返すのであった。
くれなゐの 涙ぞいとど うとまるる うつる心の 色に見ゆれば
<あなたの紅の涙だと聞くと一層うとましく思われます。移ろいやすいあなたの心がこの色ではっきりわかりますので>
この歌につづけて、「相手の人(宣孝)は、ずっと以前から、人の女(しっかりとした親の娘)を妻に得ている人だったのだ」という注が記されている。
この注がどの時点で記されたものなのか、知る由もないが、いずれにしても紫式部は、たとえ宣孝と結婚しても、自分がどのような立場に置かれるか、はっきりと認識していたことであろう。
※本稿は、『紫式部と藤原道長』(講談社)の一部を再編集したものです。
『紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏/講談社)
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