「そんなに甘かないよ」

父親は常に自分が通ってきた高校野球を土台に話すからか、親として心配な気持ちは私と変わらなくても、表面上はどこまでもどこまでも、息子に厳しかった。

少々の痛みをおして、なぜ野球ができないのか。この世界は常に競争、痛みをほんの少しでも面に出して休んでしまったら、喜んで周りはどんどん先に進んでいく。いつのまにか誰にも追いつかなくなってしまう。きっちり怪我を治すことは大事だけれど、同じくらい練習に参加し続けることも大事。昔の話をしたら今の時代に合わないのかもしれないが、父さんだってどこも痛みがなく無傷で野球できていたことなんて、学生時分から現役が終わるまで1日もなかったんだぞ。

「そんなに甘かないよ」

夫はたびたびこの言葉を息子に言い聞かせる。
彼の立場であれば、これまでの経験上痛いほど体に染みついて出てくる言葉なのだと思う。

そこから翔大は、あらゆる治療を試していた。スポーツ整形、整体、接骨、いいと聞いた病院や治療院は行き方を調べてどこまでも訪ねていった。状態が少し上向くと練習に入り、悪化してはまた治療に通いながらリハビリを行う日々が続いた。