愛弟子の阿炎(あび)クンは、棺に初優勝した時の表彰状を入れていました。「そんな大切なもの! コピーでいいじゃない!」と皆で止めたのですが、「いや、また優勝すればいいので」と言ってね。

長年、寺尾の心臓を診てくださった病院の先生方から、還暦祝いに贈られたくまのプーさんのぬいぐるみも棺に入れました。足の裏にアニバーサリーの刺繍も入っていたのに、新聞には「大好きなぬいぐるみも棺に」などと書かれて、最後の最後にプーさん好きにされちゃったね、と笑ったものです。

私が聞いた最後の言葉は、「また明日来てね、バイバイ」でした。まさかこれきりになるとは、本人も思っていなかったでしょう。

入院したのは、秋場所13日目の9月22日のことでした。自宅で心臓発作を起こして救急車で運ばれたのですが、こういう事態は寺尾の常。月に3回も救急車で搬送されたことがある、いわば常連だったのです。

血圧を測ると上が60、下が40くらいなので、初めての救命士は焦ってしまう。でも運転する方は慣れたもので、「親方はいつもそんな数値だよ」と言うほどでした。