厳しく激しい子育ての一面

明朗快活な嘉子でしたが、厳しく激しい一面もあったといいます。

(後の仕事ぶりにも表れるように)子どもの健全育成に強い関心を持っていた嘉子は、親が過剰に愛情を注いで過保護にすることにより、子どもがわがままになり、人を傷つけることを気にしないような人間になることを心配していました。

子育てにおいても、その姿勢が強く出ていたと言います。

乾太郎の4人の子どもの1人である三淵力は、「一人息子、芳武を連れて嫁して来た時、継母は、さぞや敵地に乗りこむ進駐軍、といった心がまえであっただろう」と回想しています。

乾太郎の4人の子どもたちと嘉子とが、親子としての関係を作り上げていくのには時間もかかったでしょう。

力は、「昨日、仲むつまじかったかと思うと、今日はもう言い争い、といった風に波乱が起き、我が家は平穏とはとても言い難い状態になった」「(嘉子の―筆者註)ミスを指摘し、糾弾することは、大変な勇気のいることであった」などとも書いています。

それは、嘉子らしいひたむきさの表れであると同時に、裁判所で見せている姿とは少し違った、ある意味で人間らしい一面だったのかもしれません。

※本稿は、『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。


三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(著:神野潔/日本能率協会マネジメントセンター)

2024年度・前期連続テレビ小説「虎に翼」のモデルは、日本初の女性弁護士の一人であり、初の女性判事及び家庭裁判所長・三淵嘉子(みぶち・よしこ:主演・伊藤沙莉、脚本・吉田恵里香)。

本書では、三淵嘉子の生誕から晩年までの生涯と、嘉子とともに歩んだ家族、友人、同僚たちについて紹介する。

嘉子が生涯を賭して成し遂げたかったこととは何だったのか。

「女性活躍」が求められる今にあって、その先駆者の生涯が今、明らかになる。