『源氏物語』を受け継ぐことは江戸時代の支配者たちの文化政策でもあった
これを受け継いだのが徳川幕府です。
徳川家もまた清和源氏を称しており、江戸時代には源氏長者を受け継ぐようになります。つまり源氏物語を保護することが、徳川将軍家の文化的なステータスにつながっていくのです。
そして黄金で飾られた安土桃山時代から江戸時代にかけて、金箔や金蒔絵に飾られた源氏物語の美術作品が皇族、貴族、将軍や大名の間でもてはやされ、特に嫁入り道具として好まれました。大名家最高級の嫁入り道具である尾張徳川家の文化財にも多くの源氏物語のデザインが見られるのです。
そして現在、源氏物語の最も古い、かつ有名な美術品である『源氏物語絵巻』が「源氏」である尾張徳川家に伝えられた理由もこのように見ると、おのずとわかってきます。
『源氏物語』を共有し、受け継ぐことは、江戸時代の支配者たちの重要な文化政策でもあったわけです。
『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)
平安遷都(794年)に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わり、豊かになった。その富はどこへ行ったのか? 奈良時代宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか? 新しく生まれた摂関家とはなにか? 桓武天皇・在原業平・菅原道真・藤原基経らの超個性的メンバー、斎宮女御・中宮定子・紫式部ら綺羅星の女性たちが織り成すドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期のすべてが明かされる。