田代住職がこたえた。
「過去帳です」
「過去帳……」
「檀家の方々のご先祖さまの記録ですよ」
田代住職が、箱の中から一冊取りだし、丁寧にページをめくっていく。四人はその様子を無言で見つめていた。
とても神聖なことをしているように、日村は感じた。
やがて、田代住職は言った。
「あ、ありました。これでしょう」
斉木はそのページを覗き込む。そして、自分が持っている地図と照らし合わせた。
「古い住所の記述ですが、まちがいなくこの場所ですね」
「故人のお名前は、河合忠太郎……。あれ、これって……」
田代住職が妙な顔をしたので、斉木が尋ねた。
「何です? その方がどうかしましたか?」
田代住職は原磯に言った。
「町内会役員の河合忠さんのご先祖じゃないか?」
「名前からするとそのようだが……」
田代住職は、その過去帳を見直すと言った。
「間違いない。河合忠太郎さんは、河合忠さんの曾祖父に当たる方ですね」
原磯が首を傾げる。
「その家がどうしてほったらかしになってるんだ?」
田代住職がこたえる。
「それは俺にはわからない」
斉木が言った。
「それは私が当たってみましょう。いやあ、しかし、寺でこんなことがわかるなんて驚きです」
「舐めてもらっちゃ困るね」
田代住職が言った。「古来、寺というのはあらゆる知識の宝庫だったんだ。奈良・平安の時代には、寺に最高の学問が伝えられた。檀家制度ができると、地域の住民の記録が保存されたんだ。子供たちに読み書きを教えたのも、もともとは寺だ」
斉木が言った。
「恐れ入りました。では、さっそく河合さんに連絡を取ってみます」