診察の結果

「うそばかり!」と義母は顔を真っ赤にして怒って否定した。認知症専門病院の待合室で、義父はリモコンで叩かれて赤く腫れた額を指さして、「覚えてないんか?」と義母を問いただしていた。

義母は、私の目から見れば一切覚えがないようで、「そんなこと私がするわけないじゃないの」と困惑しきっていた。

『義父母の介護』(著:村井理子/新潮社)

少し涙ぐんでいたかもしれない。そんなことを疑われるなんて、あまりにも酷い……義母の表情はそう言いたげだった。

待合室には大勢の患者がいて、中には大声を出して暴れている人もいた。義母は周囲を見渡して不安そうな顔をし、「早く帰りたい」と訴えた。

「ご家族の方お願いします」と看護師さんに声をかけられた。義父も夫も、「頼む」という顔をして私を見た。このメンバーで最も口が達者なのが私なので仕方がない。

早足で診察室に入ると、義母の主治医にリモコン事件の詳細を伝えた。

義父が退院し、家に多くの介護関係者が出入りするようになってからというもの、義母は私に「お父さんが浮気をしているかもしれない」と何度も訴えるようになっていた。

そのうえ、「女の足が見える。寝室から急いで逃げて行く」とか、「庭の玉砂利の上を誰かが歩きまわっている」とか、「夜中にラジオの声が聞こえてきて、眠ることが出来ない」「誰かが冷蔵庫を開けている」など、様々な話をしていたのだ。

そのすべてを洗いざらい医師に伝えた。医師はいくつかの可能性を提示しながら、幻聴や幻視が多いことを踏まえて、「レビー小体型認知症の可能性があるかもしれませんね」と言った。

私は自宅に戻ると、夫と一緒にレビー小体型認知症について調べた。インターネットで調べる限りは、義母の症状にぴたりと合う。「これかもしれないね」と、私は夫に言った。