劇団を辞め、大海原に飛び出して

「花組芝居」の団員は男性のみで構成され、男性が女方も演じるが、時には髭を生やしたまま出てきたりするサイケデリックな劇団。

その評判を聞いて私が観に行ったのは、『かぶき座の怪人』(1989年)。加納幸和扮する女方の大立者が、クマのぬいぐるみに「あ、おはよう、あ、おはよう」とお辞儀をさせながら楽屋入り。

部屋では『一條大蔵譚』の常盤御前よろしく楊弓(ようきゅう)に興じて、パッと簾(すだれ)が落ちるとそこにはスーパー歌舞伎の『ヤマトタケル』のポスターが、という、皮肉な笑いに満ちていた。

――そうそう(笑)。歌舞伎界の縮図をこう、ギューッとパロディ化したみたいな感じでしたね。僕は売り出し中の若手女方という役どころで、その大立者に嫉妬されるという。

でも、今ならあんなこととてもできませんよ。名誉毀損ですもの。昔だからああやってできたけどね。(笑)

で、第2の転機は、その花組を辞めたことかな。とっても楽しかったんですよ。でも、劇団で芝居、アルバイト、劇団で芝居、アルバイト……の繰り返しで1年経っちゃうわけ。そろそろ30歳になる頃だったので、これはまずいな、楽しすぎるぞ、と。やはり職業としての役者で一本立ちしたいな、と思って一回辞めてみることに。

当時アトリエ・ダンカンという事務所が呼んでくださったので、そこに所属してアルバイトをしながら2年ほどしたら映像の仕事もコンスタントに来始めて、生活できるようになりました。

ですから花組を辞めて世の中に、大海原に飛び出したのが、第2の転機でしょうね。