書類に必要事項を記入するだけで一大事。思えば、このような手続きさえ自分でしたことがなかった。それでも、申込書をポストに投函すると、賽は投げられた、とばかりに気持ちが定まってくる。

私はイタリアへ行く。たったひとりで。『ローマの休日』の舞台やフィレンツェの大聖堂、ナポリの青い海……憧れの景色が私を待っている。

海外旅行保険や海外で使える携帯電話の契約など、準備しなければならないことを、一つ一つクリアしていく。それだけで、日本にいても、もう旅が始まっているみたい。少しずつ自分が成長しているような充実感があった。

でも、外国の地に8日間もひとりでいることに耐えられるだろうか。治安が悪い地域で迷子になったらどうしよう。やっぱりキャンセル料がかかってもいいから、やめようか、という思いがよぎる。

不安は、体調にも影響するのか、頭痛がしたり、全身がだるくなったり。ぐっしょりと寝汗をかき、一晩に2回着替えたことも……。

出発2日前、宅配業者が来て、スーツケースが一足先に成田空港へと旅立った。わが身の一部が先に行ってしまった気分。もう後戻りはできない。

そして迎えた当日の朝、ハンドバッグひとつの軽装で、空港に出発。ああ、家から駅へ向かうこの一歩一歩は、すでにイタリアへの道なのね。

↓↓↓集合場所には、添乗員も、ツアー客もいない……