「你好(リーホー)」とハルがぎこちない台湾語で声をかけると、シャオリンはあからさまに警戒心に満ちた目でハルを見上げる。利発そうな瞳に、形のいいぷっくりした唇をきっと結んで、ハルの様子を観察していた。
 隣にいた玉蘭が、優しい声でシャオリンに話しかける。
 最初はうなずきながら話をきいていたシャオリンだったが、話の途中で、大きく首を横にふった。犬でも追い払うように手をひらひらして、再び視線を教科書に落とすと、玉蘭が話しかけてもなにも答えなくなってしまった。
「ごめん、ハル。話したくないって。この大きなお姉さんは雑誌の記者で、あなたの話をきいて記事を書きたいっていったんだけど」
「どうして話したくないの?」
「書いてどうなるのって。なんのために話がききたいのかわからないって」
 ――たしかにそうだ。あたしは彼女からなにをきいて、なにを書こうと思っているのだろう。
 ハルは、どうしていいかわからないといった顔をする玉蘭と、こちらにはまったく関心のない様子で『国語』と書かれた教科書を眺めているシャオリンの顔を交互に見る。