玉蘭が隣で笑いをこらえている。
 みんなって――。
 ひとつの籠に五、六十個の卵が入っているから、すべての籠だと――少なく見積もっても、五百個はありそうだ。ハルは正直に答える。
「それはちょっと無理。毎日卵焼きにしたって、半年はかかりそう。半年間、少しずつ買いにくるのじゃだめ?」
 その答えがおかしかったのかシャオリンは少しだけ表情を和らげて、何個? とぶっきらぼうにきいた。
「三個くらい?」
「それ、だれが料理するの?」と玉蘭が不機嫌そうな声を上げる。
 シャオリンは、教科書を開いてぐいっとハルに押しつけると、有無をいわさぬ調子でいった。
「五個。わからないところ、教えてくれる?」
 よかった。話がまとまった。

(続く)

この作品は一九三〇年代の台湾を舞台としたフィクションです。
実在の個人や団体とは一切関係ありません。