私が結婚した相手は、極端な漬物嫌いだった…(写真はイメージ。写真提供:photoAC)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは山形県の70代の方からのお便り。夫を亡くして1年。その事実を受け入れられるようになってきたことで、ひとつ我慢していたことを解禁することにしたそうで――。

好きなものを好きなだけ

夫が病没して、1年が過ぎた。ショックを引きずりながらも、どうにか事実を受け入れる心境にたどり着けたように思う。それに伴って、「もう解禁してもいいのかも……」と、長い間我慢してきたことを、思い切って始めてみた。自宅で漬物を食べたり、漬けたりすることだ。

私は東北の山間地の生まれで、子どもの頃からごく当たり前に漬物に親しんできた。ことに漬物作りが上手だった母は、大根、ニンジン、白菜、茄子……と、何でも格別の味に仕上げていたものだ。

それなのに私が結婚した相手は、極端な漬物嫌いだった。香りも、噛む時の音も、「好かん」と、九州のことばで強調する。「野菜を摂りたいなら、わざわざ漬物にせんでも」と言うのだ。

そういうことならと、「食卓に漬物は出しません」と宣言してしまったのは、結婚直後の若さのせい。それから50年、一度も漬物を出さなかった。

しかし、夫はもういない。好きなものを好きなだけ食べていいのだ。一度そう思うとまっしぐらに、私の漬物欲がうごめき始めた。

まずはスーパーで白菜の漬物を少量だけ買い、夕食の食卓に添える。そして仏壇の前に座り、天の夫に聞けとばかりに、サクサクと威勢のよい音を響かせた後、ゴクリと飲み込んだ。

ああ。おいしい。今度は自分でも漬けよう。

落ちてしまったであろう、漬物作りの腕の回復を目指して、ピッチを上げねばなるまい。


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