兄ちゃんの正体
「この衣装ケース、いただいていいですか?」
「はいはい、どうぞどうぞ」
「じゃあ、ここのプラケース全部使いますので」
兄ちゃんは相変わらず、古着屋のおっちゃんに鋭い視線を投げかけながら、引き出しという引き出しを片っ端から開けていく。
おそらく同業者だとひと目でわかったのだろう。
おじいさんは相変わらず服をせっせとワゴンに詰め込んでいるだけだったが。
ここで勘の悪い私でも、兄ちゃんは「残置物せどらー(※1)」なんだなということがわかった。
古い家の片付けを無料でするかわりに、もしくは格安で請けるかわりに残置物の中から価値のあるものをネットオークションなんかで売る人がいることは知っていたが、まさかこの家にプロのせどらーが来るとは思っていなかった。
あのときにアップした昭和レトロ感満載の写真がどんぴしゃだったというわけだ。
※1 残置物せどらー
「せどらー」とは、商品転売によって利益を得ている人のこと。古本・中古品などの商品を安く仕入れ、転売して利ざやを稼ぐことを「せどり」という。今回の場合は、家具や家電、食器類などを仕入れる不動産残置物に狙いを定めたせどらーだと考えられる。
※本稿は、『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
『私の実家が売れません!』(著:高殿円/エクスナレッジ)
郊外築75年、大量のガラクタ、恐怖の再建築不可物件……。
残された実家は超問題だらけ!!
笑いと涙、前代未聞の実家じまい本!