兄ちゃんの意欲
「ドレッサーの引き出しはあけましたか」
「あ、はい。でも古い化粧品とかしか出てこなかったですよ」
叔母は化粧品販売員だったらしく、山のようにポーラ化粧品の試供品が出てきたし、30年前のディオールの口紅とかでてきて、そういえば昔からディオールってこの不思議な藍色のスティックケースだよなあとしみじみ楽しく見ていたのだった。
私が見る限り、カフスケースやジュエリーケースもないわけではなかったが、中は空っぽだったし、そんな高価なものがあればそもそも叔父は兄弟が相続した実家に住んでいたりはしなかっただろう。バブルがはじけたあとは水商売も大変だったと聞くし。
そこにさっと横切る黒い影。あっ、あなたは最初に来た古着屋のおじさん。しかしFさんは鋭い視線を投げかけ、
「あの人はそこの引き出しを開けてましたか?」
「えっ、さ、さあ……?」
そんなことを言われても、この家からひとつでも多くものがなくなればいいと思っている私たちは困惑するのみ。
「もし、貴金属類が出てきたら、……いえ、何か出てきたら、必ず僕に声をかけてください。ちゃんと買い取りますので」
「あー、はい……」
兄ちゃんはきびきびと、大きなプラスチックボックスに食器という食器を詰め込みはじめた。
「これ、あとで取りに来ますんで、キープということで」
どれだけ持ってきたのか、どんどんプラケースを取り出し、食器類をすべて確保してしまった。
手持ちのボックスを使い果たしてもまだあるうちの家の残置物の量もやばいが、兄ちゃんの意欲もすごい。