小谷 私の場合は13年前、ある日突然、おひとり様になりました。シンガポールへ出張するはずだった夫が、朝ベッドの上で亡くなっていたんです。

吉永 まだお若かったでしょう。

小谷 42歳でした。私は死生学が専門で、「元気なうちに希望する治療や弔い方を家族と話し合っておきましょう」と講演会でお話ししていましたが、まさか夫を突然死で失うとは……。

吉永 私も9歳のとき父親が突然死したからわかるのだけど、昨日まで普通に話していた人が突然亡くなるのは、日常がひっくり返るくらいショックなものです。病気で徐々に弱っていくのを看取るのも、また違った感覚なのだろうけど。

小谷 夫は海外出張が多く、結婚生活の半分は離れて暮らしていたので、いまも遠くの国で生きているように感じています。だから人がイメージするほど悲嘆に暮れることはなく、「かわいそうに」と慰められても、「かわいそうなのは死んだ夫で、私じゃない」と内心思っていました。

稲垣 確かに、ひとりはかわいそう、では全然ないですよね。私も「電気がついていない家にひとりで帰るのは、寂しくないですか」などと聞かれることがありますが、じつは真っ暗な家に帰るのが大好きで、答えに困る(笑)。家に帰ってまで、誰かに気を使うって、考えただけで大変だと思うんです。

吉永 私はずっと母子家庭で育って家族に憧れがあったから、ひとりになったときは寂しさに襲われて、「失敗したなぁ」なんて思いましたよ。だけど7人分の洗濯をしなくていいのは、ラクだったねえ~。

出張先でお土産を買うとき、「喜んでくれる家族はいないんだ」と思えば寂しいけど、「好きな酒のツマミが選び放題!」と思えば楽しい(笑)。そういうふうに寂しさと楽しさが、《ミルフィーユ》みたいに重なっている感じかな。