稲垣 豊かさのなかで、自分にとって本当に大事なものが見えにくくなっている時代なのかもしれないですね。「あれもこれもないと不安」ばかりで、「これさえあれば大丈夫」がどこかへ行っちゃってる。

小谷 どう生きて死ぬか、という本質的な問いについて考える機会が少ないのかもしれないですね。子どもの頃、「将来何になりたいか」と聞かれることは多かったけれど、「残りの人生、何をしたいか」と質問される経験はほとんどありませんから。

吉永 老いていずれ死ぬということだけは確実で、いつ死ぬかはわからないしね。

稲垣 母が亡くなる3年前に認知症になったこともあって、私は、長生きするということはいずれ認知症になるということだと思うようになりました。

私はガス契約をしていないので銭湯に通っていますが、そこには認知症の方も利用している光景があって、皆がそれぞれ気にかけたり声をかけあったりしている。そんな経験の積み重ねが、自分の老いへのリアルな備えにつながっていくと思っているんです。

吉永 自助はしつつ、共助もしやすい社会が望ましいですね。私も衰えや病は避けられない、と実感中。