脳出血で倒れた日のこと
井上 あの日(昨年8月)のことはほとんど覚えていないんです。トークのとき娘(今尾侑夕・歌手)から「ろれつが回ってないよ」と言われたのですが「え?そう?」と自分ではわかっていなかった。ただ、なんとなく高い声を思い切り出せなかった。思い切り出すと脳の中でなにかが「ピキッ!」といってしまいそうな気がしたんです。それで高音はファルセットで歌ったのを覚えています。
私はいつもコンサートの前はめちゃめちゃ緊張するんですよ。前日はほとんど眠れない。それでこれまでも、本番前に過呼吸になったりしてたんです。
今尾 結婚式のときにも緊張しすぎて過呼吸になってたよね(笑)。すぐに緊張するタイプなんです。でも特に今回のコンサートは、たくさんの方にご協力いただいて、2年近くかけて、お金もかけて、準備していた。リハーサルも順調に進んでいて、あとは幕を開けるだけ、というところまでたどりついていただけに、ショックは大きいですね。
僕はちょうどロビーにいて、モニターで見ていたんですが、リハーサル最後の曲である「君をのせて」の1番はこれまでで一番上手に歌えてると思った。ところが、間奏をはさんで2番に入るところで音程がはずれたんです。「あれ?」と少しだけ違和感を感じたけれど、周りのスタッフはリハーサルですでにあずみがこみあげてきて、泣きそうになっていると思ったみたいなんです。「あずみさん、早いね」なんて言ってたし…。僕も楽観的でした。
ところが「倒れた!」という知らせを受け取って駆けつけてみると、顔の左半分がだんだん下がってきて、左手はまったく動いていない。すぐに「ただごとじゃない!」と思い、救急車を呼ぼうとしました。しかし真夏の夕方で、熱中症やらまだコロナの影響やらもあり、なかなか電話がつながらない。その場に居合わせたスタッフみんなが必死で「119」をプッシュしてくれましたね。
あずみは「頭が痛い!」とか「侑夕、代わりに歌って!」などと言ってるけど、だんだん意識が混濁していきました。