思い返せば、この家は92歳で亡くなった父と二十数年もの間、2人で暮らした場所でした。その前に住んでいたのは、神奈川県の藤沢市。私が38歳のときに母が脳血栓で倒れ、重い失語症と半身マヒになってしまって。

姉や兄はそれぞれの家庭があるので、シングルマザーの私が両親の住んでいた藤沢の家に戻り、仕事や育児をしながら父と2人で母を介護することになったのです。

その母の在宅介護が限界に達し、息子が独立したタイミングで「おまえが取材してすごくいいと言っていた、東京の有料老人ホームのそばに引っ越そう」と父が決断し、藤沢から住み替えたのがこの家でした。

そして、母は家から徒歩3分の老人ホームに入居。毎日ホームに通いながら、父と一緒に料理を作ったり、近所を2人で散歩したり。私にとって、大切な思い出がいっぱい詰まっている、かけがえのない場所なのです。

そんな家であらためて過ごしてみたら、「この家を手放すわけにはいかない」という思いがこみ上げてきて、「だったら、私がひとりで住めばいいじゃない」という心境になりました。

唐突な決断でしたが、「それぞれが自由に生きてよろしい」というのがわが家のルール。息子も好きに暮らしていることだし……と、6年ぶりに懐かしの家へ戻ることにしたのです。