ちょうどその一件でしょげていた頃に東京の家で過ごしてみたら、まあ、なんと便利なことか。最寄りの駅までは歩いて5分ちょっと。駅の右手には映画館があり、その先には商店街。喫茶店もレストランもコンビニもある。車を手放した高齢のおひとり様にとって、こんなに便利なところはありません。

昨年から、2週間に1度、取材や打ち合わせで東京に出かける仕事を抱えていたのですが、那須と東京を頻繁に往復する生活でへとへとになっていました。都内に住めば、体力的にも負担が軽くなるのは明らかです。

おまけに、私はずっとフリーランスで仕事をしてきましたから、月々の年金は約7万円。那須のサ高住の家賃も月額3万円でさほど高額ではなかったものの、父が遺してくれた家に戻れば家賃は必要ありません。たいした貯金もない私にとって、「家賃がタダ」というのは実に気楽な話ではないか、と。

もちろん、ゆいま~るでの生活は楽しかったですよ。全国各地から個性的な人たちが集まっていて、現役時代は国家公務員だった人もいれば雑誌の元編集者もいる。

そんな入居者仲間と人形劇を上演したり、2000平米もの原っぱを借りて、そこに手作りのガーデンハウスやコーヒースタンドを建ててさまざまな催しを企画したり。まるで学生時代に戻ったかのような毎日は、刺激的でもありました。でも、70代も半ばを過ぎたら、人と暮らすことにちょっぴり疲れてしまうときもあって……。

もともと、ゆいま~るに移住したのも、「丘の上に建っている、あの可愛い木のコテージに住みたい!」という衝動的な理由からでした。ですから、そろそろ自分のペースで好きに過ごせるわが家に戻ったほうがいいのかも、という気持ちもどこかにあったのでしょう。

そんなこんなで東京に引き揚げてきましたが、那須との縁が切れたわけではありません。友人が週末だけ開く居酒屋に顔を出したり、原っぱに建てた施設を管理してもらっている後継者に会いに行ったりと、今でもちょくちょく那須に通っています。

ゆいま~るには1泊3000円ぐらいで泊まれるゲストルームもあるので、いつでも気軽に遊びに行けてありがたい限りです。

後編につづく