ヨアヒム・パティニール『ステュクス川を渡るカロンのいる風景』(部分)<『カラー版-西洋絵画のお約束-謎を解く50のキーワード』より>
長きにわたって人々に鑑賞されてきた西洋の名画には、薔薇やリンゴなど、よく描かれるシンボルがあります。このようなシンボルについて、ベストセラー『怖い絵』シリーズの作者であるドイツ文学者の中野京子さんによると「ちょっとした知識があれば、隠された画家からのメッセージを探りあてることができる」とのこと。そこで今回は、中野さんの新著『カラー版-西洋絵画のお約束-謎を解く50のキーワード』から、西洋絵画をより深く読み解く手がかりを一部ご紹介します。

川のシンボル性はわかりやすい。

その形から「蛇」ないし「竜」、透明さから「清めの場」、二者を分かつことから「境界線」、そして常に一定の方向へ流れゆくので「時」や「人生」そのものの比喩とされる。

夢占いで悠々たる大河が出てくれば、その人の自信と幸運を示すという解釈があるが、納得しやすいだろう。

また西洋貴族の紋章に川(たいていは3本の波線で表される)が描かれている場合、先祖が主君のため真っ先に川越えをして武勲を立てたと考えられている。

宗教画における重要なシーンの一つは、イエスの洗礼。

グリゴリー・ガガーリン『キリストの洗礼』1860年頃 ロシア国立図書館蔵<『カラー版-西洋絵画のお約束-謎を解く50のキーワード』より>

名だたる画家たちによるそれは、ヨルダン川で洗礼者ヨハネがイエスの頭部に水をかけ、罪を洗い清めて神の子としての新たな生命を与える儀式の図だ。