「バカ」などの言葉が出てしまう「汚言症」も症状のひとつ
そうした社会生活での不便さのほか、意外と厄介なのが併発症です。
トゥレット症には、チックの症状以外にもなんらかの併発症が含まれることが多いのですが、類にもれず、僕にもADHD(注意欠陥・多動性障害)や強迫性障害などの併発症があります。
特に困るのが、強迫性障害です。これは、やらなくてもよいような行動を、ついやりたくなってしまう衝動のこと。
たとえば「鍵を閉めたか、閉めてないかが常に気になってしまう」「ガスの火を消したか、消してないかを何度も確認しに行ってしまう」などが代表的な例です。
そして、僕の場合は、「やってはいけない状況で、やってはいけないことをしたくなる」という、悪魔的な強迫性の衝動があります。
一時期とても困ったのが、目の前にいる人に対して、突然中指を立てたくなってしまう衝動です。
ご存じの通り、相手に中指を立ててみせれば、当然相手の心証が悪くなります。僕の病気について知っている人でも、「なんでいきなり中指を立てられなきゃいけないの?」と戸惑っている姿を、何度も見たことがあります。
最近は、その衝動が浮かんだときは、中指以外の指も伸ばして、ストレッチをしているように見せかけてフォローしていますが、無意識のうちに中指を立てていないかという不安はいつもつきまとっています。
それだけでなく、「バカ」「死ね」などの汚い言葉を口にしてしまう「汚言症(おげんしょう)」なども、僕が持っている病気のひとつ。
僕の病気について知らない人の前で出てしまったら、「ケンカを売られたのか?」と誤解されてもおかしくありません。
こうした症状は、周囲とのコミュニケーションに大きな亀裂を生むため、僕を含むトゥレット症の当事者が社会生活を送るうえで非常に大きなハードルになっています。
※本稿は、『トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
『トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由』(著:酒井隆成/扶桑社)
自分の意思に反して身体が動いてしまったり、声が出てしまったりする症状が持続する「トゥレット症」。
この難病と20年近くにわたって一緒に生きてきた著者はいま、「世界一幸せ」と感じているという。
いかにして病気と向き合い、苦難の連続を乗り越え、天職に出会い、前へ進んできたのか?
そのパワフルな半生と、啓発への想い、そして人生を楽しんできた秘訣を語る!