ある意味、今どきの恋愛に通じる部分も

宇治の大君は「結婚など世間のしがらみに過ぎない邪魔物」と思っていた薫の心を惹きつけるような人でした。

そして、彼女自身も薫に惹かれていたにもかかわらず、なぜか「私はやはり独身で通し、薫は若くピチピチした中君に譲って、力の及ぶかぎり二人の世話をしてあげよう。私が結婚するなら、誰が後見をしてくれるのでしょう。薫はあまりにすぐれた男で、私には不似合いなのに」(総角帖より)と考えてしまう。

“世捨て人女子”に加えて“こじらせ女子”だったのです。

そして薫もまた、彼女に劣らぬ“こじらせ男子”でした。

大君が自分と中君の結婚をあきらめるように、姉妹に興味を持っていたライバルの匂宮をこっそり宇治に連れ出し、中君に通わせるという非常手段に出ました。大君に自分を選ばざるを得なくしたのです。

しかし京と宇治は遠く、匂宮もそうそう通えるはずもない。

そうこうしている間に、世間知らずの大君は匂宮の不実を疑い、健康を害し、ついに命を落としてしまいます。これまでの『源氏物語』では考えにくい男女の仲の終わりです。

自分のライフスタイルに固執するあまり、心に素直になれず、すれ違う…。

ある意味、今どきの恋愛に通じる部分があるように著者は思うのです。


女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

平安後期、天皇を超える絶対権力者として上皇が院制をしいた。また、院を支える中級貴族、源氏や平家などの軍事貴族、乳母たちも権力を持ちはじめ、権力の乱立が起こった。そして、院に権力を分けられた巨大な存在の女院が誕生する。彼女たちの莫大な財産は源平合戦の混乱のきっかけを作り、ついに武士の世へと時代が移って行く。紫式部が『源氏物語』の中で予言し、中宮彰子が行き着いた女院権力とは? 「女人入眼の日本国(政治の決定権は女にある)」とまで言わしめた、優雅でたくましい女性たちの謎が、いま明かされる。