ある意味、今どきの恋愛に通じる部分も

宇治の大君は「結婚など世間のしがらみに過ぎない邪魔物」と思っていた薫の心を惹きつけるような人でした。

そして、彼女自身も薫に惹かれていたにもかかわらず、なぜか「私はやはり独身で通し、薫は若くピチピチした中君に譲って、力の及ぶかぎり二人の世話をしてあげよう。私が結婚するなら、誰が後見をしてくれるのでしょう。薫はあまりにすぐれた男で、私には不似合いなのに」(総角帖より)と考えてしまう。

“世捨て人女子”に加えて“こじらせ女子”だったのです。

そして薫もまた、彼女に劣らぬ“こじらせ男子”でした。

大君が自分と中君の結婚をあきらめるように、姉妹に興味を持っていたライバルの匂宮をこっそり宇治に連れ出し、中君に通わせるという非常手段に出ました。大君に自分を選ばざるを得なくしたのです。

しかし京と宇治は遠く、匂宮もそうそう通えるはずもない。

そうこうしている間に、世間知らずの大君は匂宮の不実を疑い、健康を害し、ついに命を落としてしまいます。これまでの『源氏物語』では考えにくい男女の仲の終わりです。

自分のライフスタイルに固執するあまり、心に素直になれず、すれ違う…。

ある意味、今どきの恋愛に通じる部分があるように著者は思うのです。

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