追い詰められた浮舟は…
こうした立場に追い詰められたのは浮舟本人でした。
生真面目な薫も情熱的な匂も、結局彼女のために生きる男ではないということに気がついてしまいます。そして浮舟は、匂に囲われていた宇治の山荘から失踪してしまうのです。
浮舟の失踪は、薫にも匂宮にとっても大事件ではありましたが、しょせんは少し目をかけた田舎娘のこと、という程度の扱いに。遺体のない葬儀を終えると、やがて恋多き日常の中で忘れられていきます。
しかし浮舟本人はずっと生きていたのです。
彼女は横川僧正という徳の高い僧に救われ、比叡山の麓の小野に隠れ住んで、手習の日々を送りながら、初めて自分に向き合うことができたのです。
浮舟が生きていることを知った薫の説得にも耳を貸すことなく、彼女は自主的に出家の道を選びます。
こうして、恋愛物語としての「宇治十帖」は川霧に消えゆくように終わっていくのです。