リリー・オンコロジー・オン・キャンバス 絵画部門優秀賞『あの日の風景』
絵画部門優秀賞『あの日の風景』木村 知佐子(きむら ちさこ)さん
がんと告知された時の不安、がんと共に⽣きる決意、そしてがんの経験を通して変化した⽣き⽅など、⾔葉だけでは伝えきれない想いを絵画・写真・絵⼿紙で表現する「場」があります。がんサバイバーの方の思いが詰まった作品を紹介します。

罹患直前の記憶にある美しい景色

あの日輝く海と青い空、それから白い岬の青と白のコントラストが目に焼き付いて、又絶対にこの美しい景色を見に来ようと思った。罹患直前の記憶の片隅。

それは生まれつきの障がいのある長男と訪れた海辺だった。急におなかが痛くなり、「トイレに行くから待ってね」と言うと「我慢しろ」と返ってきた。そんな人を思いやることが出来にくい障がいを持つ長男に振り回され、体調は最悪だったが、美しい景色にとても癒された。

それから間もなく、直腸癌であることが発覚し、放射線治療、手術、抗がん剤治療を終えて5年が過ぎました。息子の小さかった頃は、本当にすべてが大変でした。ドライブに連れて行き山道を通れば、今、この道から落ちたら楽になれるだろうか。などと考えていたものだったが、いざ命にかかわる病気になると、一転して「生き抜くぞ、息子を置いては死ねない」と思った次第でした。