九段の母
昭和14年(1939)4月には、キングからテイチクに移籍した塩まさるの「九段の母」(作詞:石松秋二、作曲:能代八郎)という名作が生まれた。
東北地方から出征した農家の母親であろうか。上野駅まで上京するも九段坂までの行き方がわからず、杖をつきながら1日かけてようやく靖国神社へと到着する。
名誉の戦死を遂げて、靖国神社に祀られた息子に、戦場で武勲を挙げたものに与えられる金鵄勲章を見せるためだ。
そして母は涙を見せず、神と祀られたことに感激している。
これを聴いた遺家族の母たちが、「九段の母」と同じ気持ちであったかはわからない。
しかし、「九段の母」と同じように息子や夫が靖国神社に祀られる家庭は増えていった。
そうした現実があるからこそ、「九段の母」は大衆に共感されたのである。