兄たちから学び、泳力を身につけた小学生の巌さん

自給自足ができ、貧乏だったが栄養不足にはならなかった。夏休みには浜名湖で遠泳をやった。小学生になった巖さんは、兄の茂治さんや實さんに必死についていき、泳力も身に付ける。

浜松市は「フジヤマのトビウオ」古橋廣之進(1928~2008)の故郷。ひで子さんや巖さんが通った雄踏小学校の出身で、浜名湖の遠泳で鍛えた古橋は中学校から卓越した泳力で有名になる。

戦時色が強まり学徒動員され砲弾工場で作業中、手の指を切断するが、戦後、日本大学に進学し競技に復帰すると破格の活躍を見せる。

1948(昭和23)年のロサンゼルス五輪に日本は参加できなかったが、同時に開催された日本選手権で古橋は、400、800、1500メートルの3種目で、金メダリストを上回る世界記録を打ち立てた。

全米選手権にも参加し、米国選手を破って次々と世界記録を残し、米国の新聞が「フジヤマのトビウオ」と命名した。体格に勝る米国選手に勝つ勇姿は、敗戦に沈む日本人を勇気づけた。

ひで子さんは「古橋さんは長兄の茂治と雄踏小学校の同級生でした。まだ有名になる前、学校に来たのを見ましたよ」と振り返る。