肩を上げる
プロレスが好きだ。9月は10大会観た。3日に1度はやりすぎだ。2024年は仙台、栃木、静岡、名古屋、大阪、福岡に遠征もした。次は網走に行く。どうかしている。中年になってこれだけ夢中になれることが見つかったのは、すごく幸せ。だから、観たいカードがあるうちは仕方ないと諦めてもいる。
東京在住者は、若いうちから簡単に手が届く文化資本の貴重性を理解していないと言われたことがある。確かにミニシアターはそこらじゅうにあったし、来日アーティストのライブも東京がメイン。美術館も多く存在し、傍から見たらそうなのだろう。しかし、これまでの私は「そんなもんですかねえ」としか思っていなかった。いまなら、己の恵まれっぷりがよくわかる。東京では毎日どこかでプロレスの大会が催されているから。東京に生まれ育ち、これほどアドバンテージを感じたことはない。
いつの間にこんなにハマってしまったのだろう。友人からジャネット・ジャクソンのライブに誘われ、一番贔屓にしている「ガンバレ☆プロレス」の高島平大会があるからと断った時、なんの躊躇(ためら)いもなかった。プロレスにハマる前なら一も二もなく行くと答えていたはずだ。次はいつ来日するかわからないし。それでも、高島平区民館で行われるガンプロ興行のほうが観たかった。だって、私は2度目の青春ど真ん中だから。
プロレスは肉体的にも運動能力的にも並外れた超人がやるものだと思っていたが、ガンプロの選手たちは違った。決して体躯(たいく)が大きいとは言えない選手たちからの、適性を凌駕するプロレス愛をびしゃびしゃ浴びた。私たちと同じように生活者として生きる選手たちが、リングのなかに入るとたちまち輝き出す姿に惚れ惚れした。男女混合で分け隔てなく戦う姿にも心を動かされた。だって、リアルな世界もそうだもの。
次に、「仙女」こと「センダイガールズプロレスリング」にハマった。女を売りにも言い訳にもしない、女にしかできないプロレスが観られる仙女のリングは最高だ。いまは、歴史ある全日本プロレスの大会にも足しげく通っている。そこで観たフリーの選手の戦いっぷりに心酔し、その選手が出るほかの大会にも足を運ぶ。結果、週に何度もプロレスを味わうことになった。