家事を肩代わりし始めた父の姿

母を尊敬していたからこそ、認知症になった時は大ショックでした。「何でこんなこともできんようになったの」「情けなくて見とられんわ」母の異変をなかなか認められず、「しっかりしてやお母さん」と思わず責めてしまったことも数知れず。

そんな時です。茫然自失の状態から抜けきれない私を尻目に、気づくと父が少しずつ、家事を肩代わりし始めていたのです。

『あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』(信友直子/文藝春秋)

母に代わって買い物に行く。たまった洗濯物を洗い始める。ゴミをきちんと分別して出しに行く。遂(つい)には母の裁縫箱を取り出して、代わりに繕(つくろ)い物までし始めました。

「えーお父さん、こんなこともできるん? すごいね!」

驚く私に照れくさそうな父でしたが、続いて言った言葉が忘れられません。

これまで、わしが何もせんでもひとつも困らんかったのは、おっ母がみなしてくれよったけんじゃのう。こうなって初めて、いかにおっ母に世話になりよったかが身にしみてわかったわ。これからはわしが、おっ母に恩返しする番じゃ