母からの大切な贈り物

この言葉から7年間、父は母を支え続けました。今度は父がお風呂を沸(わ)かし、母を入浴させ、着替えを用意したのです。時にはおもらしした母を着替えさせ、汚れた下着を洗うこともありましたが、それでもやさしくお世話していました。根底に「わしをこれまで支えてくれてありがとね」という感謝があったからこそだと思います。

「何もできない」といささか見くびっていた父が、実はこんなに愛に溢れた「イイ男」だったとは……。この発見は、娘の私にとっても贈り物となりました。

認知症は確かに、本人にも家族にも辛い病気ではあります。でも見方を変えれば、今まで気づかなかった大切なことに気づかせてもらえる、得難い体験にもなるのではないでしょうか。

母が認知症にならなければ、私が父にちゃんと目を向けることもなかった。そしたら当然、父の愛らしい笑顔を写真に収めようと思ったり、父のつぶやく素敵な言葉に心を震わせたりすることもなかった……。

そう思うと『あの世でも仲良う暮らそうや』も、大好きだった母の認知症がくれた、大切な贈り物のひとつだと言えそうです。

 

※本稿は、『あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。

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あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』(信友直子/文藝春秋)

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