「母が元気な頃は、特に仲が良いとも感じていなかったんですよ。顔を合わせてしゃべるのはご飯の時くらいという、割とドライな関係に見えました(直子さん)」(写真:『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』《全国順次公開中》(c)2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会)
母の病の発症、父による老老介護、そして看取りまでを、娘が撮り続けたドキュメンタリー映画の続編が全国各地で感動を呼んでいる。監督の信友直子さんが両親の老いを見つめるなかで得たものは(構成=山田真理)

家事全般を90歳過ぎの父が担う

故郷の広島県市で開いた上映会では、101歳になった父も観て、号泣していました。「ええおっかあじゃった。おっかあと暮らせて、わしゃ本当に幸せじゃった」って……。

認知症になった母と耳の遠い父の暮らしを描いた前作(『ぼけますから、よろしくお願いします。』2018年)を公開した時から、両親の仲の良さ――特に父の母に対する優しさ、慣れない家事に奮闘する姿に「あの年代の男の人には珍しい」という反響をいただいていました。

とはいえ母が元気な頃は、特に仲が良いとも感じていなかったんですよ。母は母でお友だちと趣味の書や絵を楽しみ、父は部屋で本を読んでいれば幸せという人。顔を合わせてしゃべるのはご飯の時くらいという、割とドライな関係に見えました。

母は主婦としてのプライドがある人だったから、父には家のことを何もさせなかったんです。定年退職して時間のできた父が台所で手伝おうとしても、「ええけん放っておいて」と機嫌が悪くなったそう。そのため、父はコーヒーを淹れるぐらいしかできないと私も思い込んでいて。

だからこそ、母の認知症が進むにつれて、家事全般を90歳過ぎの父が担うようになったことには本当に驚きました。