100歳の誕生日を迎えて
父の気をまぎらわそうと、おもしろくもない冗談を言っては笑わせようともしました。今思い返せば、私の態度の方が痛々しかったかもしれません。
でも私は私なりに、母から「お父さんを頼んだよ」と託されたように感じて必死だったのです。
最も心がけたのは、食卓に父の好物を並べることでした。ちょうど瀬戸内名物の小イワシ漁が解禁になった季節だったので、青魚の刺身に目がない父のために大量に買い求め、1尾ずつ骨を取り除き、何度も水洗いして臭みを抜く……そんな手間のかかる作業を、毎日していた記憶があります。
(私自身、こういう面倒な作業に没頭して心を無にすることで、母を喪(うしな)った悲しみから意図的に目を逸(そ)らしていたようにも思います)
小イワシパワーのおかげもあってか、父は食欲を落とすことなく、夏を乗り切ってくれました。少しずつ笑顔も増えてきました。
そしてその年の11月、めでたく100歳の誕生日を迎えたのです。