ご近所さんの悩み相談を引き受けていた母
ははあ、映画で有名人になったからだな。私はそう思いました。
認知症の母を父が介護する様子を描いた私の映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』が予想を上回る大ヒットになり、地元・呉の映画館でもロングラン上映されたおかげで、父は「お父さんカッコイイ」などと言われてチヤホヤされるようになったのです。
しかし父は、
「いや、これはお母さんのおかげなんよ」
と言います。
「どういうこと?」
と聞くと、
「おっ母がずっと、近所の人にようしてきたけんの。じゃけんわしが今、近所の人にようしてもらえるんじゃ」
その瞬間、元気だった頃の母の笑顔が鮮やかに蘇ってきて、泣きそうになりました。
そう言えば母は昔から、ご近所さんの「悩み相談」を一手に引き受けていた人でした。ウチにはいろんな人が「信友さん聞いてぇや」とやって来ては、悩みを打ち明けていました。
それを母はニコニコと辛抱強く聞き、時には「こう考えたら楽になるんじゃないの?」と助言していたのです。いわゆる「聞き上手」だったんですね。
そのうえ口が堅いので、みなさん安心して悩みを吐き出し、 「あー聞いてもろうてスッキリしたわ。ありがとねぇ」と晴れ晴れした顔で帰っていたのです。