ご近所さんの悩み相談を引き受けていた母

ははあ、映画で有名人になったからだな。私はそう思いました。

認知症の母を父が介護する様子を描いた私の映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』が予想を上回る大ヒットになり、地元・呉の映画館でもロングラン上映されたおかげで、父は「お父さんカッコイイ」などと言われてチヤホヤされるようになったのです。

ご近所さんと(『あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』より)

しかし父は、

いや、これはお母さんのおかげなんよ

と言います。

「どういうこと?」

と聞くと、

おっ母がずっと、近所の人にようしてきたけんの。じゃけんわしが今、近所の人にようしてもらえるんじゃ

その瞬間、元気だった頃の母の笑顔が鮮やかに蘇ってきて、泣きそうになりました。

そう言えば母は昔から、ご近所さんの「悩み相談」を一手に引き受けていた人でした。ウチにはいろんな人が「信友さん聞いてぇや」とやって来ては、悩みを打ち明けていました。

それを母はニコニコと辛抱強く聞き、時には「こう考えたら楽になるんじゃないの?」と助言していたのです。いわゆる「聞き上手」だったんですね。

そのうえ口が堅いので、みなさん安心して悩みを吐き出し、 「あー聞いてもろうてスッキリしたわ。ありがとねぇ」と晴れ晴れした顔で帰っていたのです。