「世の女性たちに嫌われてください」

倍賞 夫婦そろって何かを始めるのって、共通の話題で会話が増えていいんじゃないですかね。最近そう思いますよ。夫婦だって、言葉で言わないと想いは伝わらないから。映画の中で藤さんが演じた勝さんみたいに無口で無愛想じゃダメですよね。勝さんは典型的な亭主関白で、妻が何をしてあげても当たり前という感じで、感謝の言葉もないの。

 倍賞さん演じる妻の有喜子さんが、外出から帰宅した勝の靴下を玄関で脱がせて、それを丸めて自分のエプロンのポケットにしまうシーンがあるんです。あれはさすがにやり過ぎだろうと思って、監督に遠まわしに「いくら夫唱婦随の夫婦でも、こんなことまでしますかね……」と、ちょっと抵抗してみたんですけどね。「いやいや藤さん、ぜひやって、世の女性たちに大いに嫌われてください」と言われました。(笑)

倍賞 靴下まで脱がせてあげる人は少なくなってきてるでしょうけど、あのシーンで夫の後ろに妻が従う昭和的な夫婦の関係を見せておかないと、物語が始まらないですものね。勝さんは有喜子さんが楽しげに話しかけても、いつも「ふーん」って感じで興味なさそう。何も聞いてないの。

 あれは、せつないですよね。

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倍賞 そう。有喜子さんはとっても寂しかったのネ。そんななか、可愛がっていた飼い猫のチビがいなくなって、有喜子さんは離婚を決意する。そして家出という初めての小さな反抗をきっかけに、有喜子さんは自分の気持ちや夫の本心を深く理解していくんですね。

 そうですね。

倍賞 そこに愛があったのかどうかは映画をご覧いただくとして(笑)、この映画は実はラブロマンス作品でもあって。今の年齢でそういう作品に出られることもうれしかった。藤さんは奥さんを大切になさっていて、ちゃんと話を聞かれる方ですから、奥さんは寂しい思いをなさっていないでしょ。

 ところが、うちは一見、亭主関白に見えるらしいんです。どういうわけだか近所で「お宅は旦那さんがお強いんでしょう?」とか言われるんです。僕の風貌からそう見られるようで。だから妻は同情されているみたい。

倍賞 あらら(笑)。ご夫婦で意見が合わなかったり、口論になったりすることは?

 最近は記憶にないねぇ。以前は3、4年にいっぺんぐらいはあったけど。